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VOL.52

Vol.52 睡眠の役割は、「心身のメンテナンス」睡眠中になされる体内のさまざまな調節とは

睡眠は「余裕がなければ削ればいい」とすら思う人がいるほど、後回しにされがちです。平成の初めには「24時間戦えますか?」というCMも流行しました。しかし近年、睡眠は単なる休止状態ではなく、体内のあらゆる不具合を修復し、整備する大切な“活動”であることがわかってきました。

睡眠中に行われる、心身のメンテナンス

ヒトはなぜ眠るのか?その答えは、「心身のメンテナンス」です。睡眠時間は、脳や内臓、自律神経系、ホルモン系、免疫系などその日に生じた体内のあらゆる不具合をリセットし、翌日の活動に備える、大切な整備の時間です。主な整備項目だけでも、以下のようなことが挙げられます。

① 脳内のゴミを取り除き、記憶の整理をする
脳は、活動中に学習した記憶を整理し、必要な情報を定着、強化、一方で不要なものを脳脊髄液中に排泄するという「保守作業」を毎日行っています。このはたらきは主に睡眠中に行われます。老廃物のひとつ、アミロイドβというタンパクが脳に蓄積することが、アルツハイマー病の原因と言われていますが、睡眠不足になるとこのメンテナンスがうまく行われず、認知症発症のリスクが高まることがわかっています。

② 疲労回復を早めアンチエイジングを促す
睡眠中のホルモン分泌のパターンも、心身のメンテナンスに深く関わっています*1。図1を見てください。寝入りばなに多く分泌されるのは成長ホルモン。筋肉、骨、内臓、皮膚などのダメージを修復し、疲労回復に導く重要なホルモンです。アンチエイジングホルモンとも言われています。「寝る子は育つ」のみならず、「寝るオトナは若返る」。一方、眠りの前半部分から増えるのがメラトニン。メラトニンには抗酸化作用があり、がんや老化を抑えるはたらきがあります。そして、起床前から日中の活動に備えて増えるのがコルチゾール。睡眠不足はこのようなホルモンの分泌リズムを乱し、心身の不調の原因となります。

③ 免疫力を向上させる
図2は、睡眠時間が短いほど風邪に罹りやすいことを示しています*2。免疫系は多彩な免疫細胞や物質から成り、それぞれが役割分担して複雑なシステムを確立しています。免疫システムの主力として感染やがん細胞に立ち向かうTリンパ球の活動は夜間に活発になります。睡眠前から睡眠期前半にかけて多く分泌されるメラトニンは胸腺に作用してTリンパ球をたくさん作らせるため、十分な睡眠を取れていないと免疫システムも十分な威力を発揮できなくなります。

④ 自律神経のバランスを整える
自律神経には活動モードの「交感神経」と癒やし・回復モードの「副交感神経」があり、交互に上昇、低下を繰り返します。日中は前者が優位、夜間は後者が優位となります。睡眠中は副交感神経が優位で、血圧や心拍数、呼吸数、体温が低下し代謝も低下します。同時に、疲労回復を進め明日の活動のために心身を整えていくのです。
睡眠の時間や質が低下すると、交感神経優位の状態が長くなり、基本的な身体活動に不調を来します。それだけでなく、身体活動機能や思考力、気分も低下し、結果的に本来のパフォーマンスが発揮できなくなってしまいます。

⑤ 食欲を調節し、肥満を予防する
睡眠不足になると脂肪細胞から分泌される食欲を抑制するレプチンというホルモンが減少し、胃から分泌される食欲を増すグレリンが増えます。夜間に起きているとついスナック菓子やラーメンが食べたくなることはありませんか?これは、こうした食欲抑制ホルモン・増進ホルモンのバランスの乱れによって起こります。当然、生活習慣病を発症するリスクが高まります。

今年の夏、循環器内科外来では患者様の血圧に異変がおきていました。通常、夏は血圧が下がりやすくはずなのに、高血圧を訴えてこられる方が多くいました。不眠患者さんもいつになく増えています。これも新型ウイルスの影響で生活リズムが変わってしまったことが一因かもしれません。こんな時こそ、きちんと睡眠をとることで心身のメンテナンスを図ることが大切なのです。

もっと知りたい方へ

「睡眠」とは、明日の活動のための「ダイナミック(動的)な準備」である

睡眠中は決して「活動停止状態」ではありません。脳は睡眠中に不調を回復させ、次の活動に備えて能動的に準備しています。
睡眠は「明日の最高のパフォーマンスに向けた、脳や心身の準備活動」なのです。

2つの睡眠、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」

ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠という質的に異なるふたつの状態で構成されています*3。レム睡眠は“Rapid Eye Movement”(眠っているときに眼球が素早く動くこと、REM)からこのように呼ばれています。図3には健常成人の典型的な夜間睡眠パターンが示されています。寝入りばなから90分ほど深いノンレム睡眠が続き、その後約90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返し出現します。レム睡眠は睡眠の後半から起床前にかけて増え、この時間帯は心身ともに覚醒への準備状態になるといわれています。
表1に2つの睡眠パターンの違い*4を示しました。ノンレム睡眠では大脳皮質を集中的に冷却し休養を取らせます。頭は深く眠っていますが、筋肉はそれほど緩んでおらず、どちらかというとパソコンの“スリープモード”に近い状態です。一方レム睡眠では主にからだを休めており、筋肉が弛緩してエネルギーを節約します。パソコンで言えば完全な“オフラインモード”。夢を見るのは主にレム睡眠中です。またレム睡眠中は自律神経系が交感神経優位となり血圧や脈拍が変動しやすい状態となります。

表1に2つの睡眠パターンの違い4)を示しました。ノンレム睡眠では大脳皮質を集中的に冷却し休養を取らせます。頭は深く眠っていますが、筋肉はそれほど緩んでおらず、どちらかというとパソコンの“スリープモード”に近い状態です。一方レム睡眠では主にからだを休めており、筋肉が弛緩してエネルギーを節約します。パソコンで言えば完全な“オフラインモード”。夢を見るのは主にレム睡眠中です。またレム睡眠中は自律神経系が交感神経優位となり血圧や脈拍が変動しやすい状態となります。

良い睡眠を呼ぶ習慣とは

その日に元気に活動するためには、前日の夜からの過ごし方が大切です。

■就寝前の過ごし方
① 食事、アルコール、コーヒー、タバコ、エナジードリンクは就寝の3時間前までに
特に寝酒は交感神経優位にし、寝ようとする大脳をたたき起こすようなもの。ぜひ控えましょう。早めに飲食を切り上げることで、交感神経を休め副交感神経優位の状態を促します。
② 就寝1時間前からパソコンやスマートフォンの画面を見ないようにする
ブルーライトの弊害だけでなく、絶え間なく動画を見続けることにより交感神経優位が続き、睡眠導入が妨げられてしまいます。
③ 入浴は就寝1時間前までに、熱い湯は避け10分程度で
眠気は深部体温が下がるときにやってきます。深部体温が上がりすぎると交感神経活性が上昇し、入眠しにくくなります。
④ 眠くなってから寝床に入る
ベッド上で本を読んだりテレビを見たり考え事を始めたりすると、「ベッド=眠る場所」と脳が認識しなくなり、入眠しにくくなります。どうせなら、見終わってからベッドに入りましょう。
⑤ 必要に応じて、一時的に睡眠導入剤を用いる

どうしても入眠困難が続く場合は、我慢せず一時的にでも薬の力を借りることも考えましょう。睡眠不足を我慢し続ける方が体調に悪影響を及ぼす場合があります。

■翌日の過ごし方
① 激しいアラーム音で目覚めるのを避ける
朝の自然な光や優しい音色のアラームで覚醒するようにします。突然激しい目覚ましの音を聴くと、自律神経系を乱すもととなります。
② 朝食を摂る
朝食を摂ることにより、交感神経の活性化を助け、しっかりと目覚めさせることができます。
③ 昼食後に必要に応じて20分程度の仮眠を取るとよいこともある
仮眠により、午後のパフォーマンスが向上することも。必要に応じて試してみてください。

繰り返しますが、睡眠は単なる活動停止ではありません。次の活動への準備活動です。積極的に良い睡眠を心がけることが、健康維持だけでなく、長期的なパフォーマンス向上に繋がります。

  • *1

    Coevorden, et al. 1991

  • *2

    Prather, et al. Behaviorally assessed sleep and susceptibility to the common cold. SLEEP. 2015;38(9):1353–1359.

  • *3

    厚生労働省 e-ヘルスネット:「眠りのメカニズム」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html

  • *4

    『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)