Vol.08:「痩せられないワケ」Part I
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1
正しい栄養
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2
適度な運動
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3
適正な回復(休養)
“栄養障害”とは、適切な栄養が摂れていない状態のこと。飽食の時代に栄養障害?と思われがちですが、栄養不足だけでなく“栄養過多”や“偏った栄養”もひっくるめて、栄養障害といいます。 42歳の主婦、Aさんの生活を例に考えてみましょう。あなたがもしAさんと同じ悩みを持つなら、何かのヒントが見つかるかもしれません。
Aさんは2児の母で、営業マンの夫と4人暮らしです。朝からお弁当作りに始まり、週3回のパート、実家の母の手伝い、夜遅い夫の食事の支度と片付け、土日も子供のサッカーチームの送迎などで、日々休む暇なく動き回っています。そんなAさんは、身長158㎝、体重60㎏。ここ2-3年で体重が7㎏増えたまま戻りません。Aさんはなぜ痩せられないのか?中年太り、と一言で片づけてしまえばそれまでですが、今少し実情を探ってみましょう。
活動的で真面目なAさん、油濃いものを控えて野菜中心の食事を心がけ、肉は食べないようにしています。平日の朝は5時半起床、3人分のお弁当を作りながら朝食の支度。しかし、自分は時間がなくて菓子パン1個という日も。昼はそうめんやそばなど麺類で済ませることが多く、時にはご飯のかわりにカステラ一切れ、野菜ジュース、もしくは昼抜き、なんていう日もあります。間食はしないつもりですが、いただきものは断れない性格。小腹が空いたときは、チョコレートふたカケラでしのぎます。家族のそろう夜は栄養バランスを考えた和食中心ですが、月に何回かある夫の泊まりがけ出張の日は、子供と一緒にピザを頼むことも。果物はもちろん、別腹です。
そんなAさんの食事を表1にまとめました。
時間 | 種類 | 平日 | 休日 |
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7:30 | 朝食 | 時間がなくて、クリームパン1個 | トースト1枚、サラダ、牛乳、目玉焼き(ハムエッグ)(○) |
10:00 | 間食 | パートの休憩時に、野菜ジュース1杯 | |
13:00 | 昼食 | パート仲間とランチ、生姜焼き定食 (◎) | 家族でそうめん(1人分乾麺100g) |
16:00 | 間食 | パート先の差し入れ、お饅頭2個 | 小腹が空いて、チョコレート2カケラ |
19:00 | 夕食 | 夫が出張で留守なので、子供と宅配ピザ(計3人前) | タラのムニエル、グリーンサラダ、筑前煮、ほうれん草のお浸し、ごはん1杯、味噌汁1杯(◎) |
22:00 | 夜食 | 夫の晩酌に付き合い、いただきもののリンゴ2切れ | 熟した柿2個 |
Aさんの食事量は標準的ですが、①糖質が多く、②タンパク質が少ないことがわかります。ひとつひとつのメニューに問題があるというより、こうしたメニューが重なることが問題です。
① 糖質でお腹を充たしていては、他の必要な栄養素の取り込みを逸してしまいます。
意外と多い落とし穴は、果物と麺類です。果物の糖分である果糖は、非常に力価の高い糖質です。麺類は一見軽い食事に思えますが、無意識のうちに糖質だけをたくさん摂ってしまいます。また、カステラでは、ほとんど小麦粉と砂糖だけしか入りません。チョコレートは、3カケラも食べれば、小さなケーキ1個分の糖質になってしまいます。たとえ全体のカロリーは変わらないとしても、ビタミンやミネラルなど必要な栄養素が足りず、立派な栄養障害のリスクと言えます。
② タンパク質が足りないと、筋肉が減るだけでなく、代謝や免疫力も落ちてしまいます。
もう一つのポイントは、タンパク質が少ないことです。筋肉は主にタンパク質でできていますが、タンパク質をあまり摂らない生活が続くと、筋肉量が少なく、運動してもすぐ疲れてしまい、つい運動しなくなってしまいます。こうして、脂肪を溜め込みやすいからだになります。Aさんはお肉を敬遠していますが、実はタンパク質を最も効率よく摂れる食品をみすみす逃しているのです。
タンパク質は筋肉だけでなく、臓器の細胞、体液、皮膚などあらゆる組織の原材料になります。慢性的に不足すれば、運動能力だけでなく、代謝、免疫、臓器のはたらきなど、長期的にはさまざまな障害が生じえます。どことなくだるい、風邪を引きやすい、といった不調も、あるいは栄養状態が影響しているかもしれません。そして、筋肉のポンプの働きが落ちることにより、心臓のポンプに負担がかかり、慢性心不全の危険性が高まります。通称“隠れ心不全”、専門用語では“HFpEF(通称ヘフペフ)”と言われます。病院で安静時の心電図や心エコーなどを施行しても正常なことが多く、採血による心不全マーカーや運動負荷試験などにより初めてわかることもあります。 “隠れ心不全”は近年増える傾向にあり、問題になっています。
単なる絶対量やカロリーの帳尻合わせでは、結局痩せられないどころか、体調不良を自ら招きかねません。お勧めは、“和定食”タイプの食事です。エネルギー源である糖質、体の構成要素となるタンパク質、そして組織やホルモンなどの合成や機能に欠かせない脂質、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく摂ることができます。また、Aさんが敬遠しているお肉は、実はタンパク質を最も効率よく摂れる食品です。野菜と一緒に摂れば、野菜の抗酸化作用により動脈硬化のリスクも抑えることができるといわれています。 特に、心臓疾患を持つ人にとって、良好な栄養状態を保つことはとても重要です。ハートセンターでは、個別の面談を行い、心血管疾患を予防し健康寿命を延ばすために、栄養士による個別のカウンセリングも行っています。
詳しい資料が厚生労働省のインターネットサイト“e-ヘルスネット("http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html")”に掲載されていますので、興味のある方はご参照ください。
次回は、「痩せられないワケ Part II 運動編」をお送りします。
もっと知りたい方へ
健康な人で比べた時、タンパク質を最も多く摂っている世代は、どの世代でしょう? 答えはなんと、60歳代です(図3)!60代では、毎日男性70g、女性60g、ステーキに換算すると300gに相当するタンパク質を毎日摂っているということです。同様に、炭水化物(ごはん、麺類、パンなど)の摂取が最も多いのも、60歳代。脂質の摂取量はさすがに若い世代のほうが多いですが、健康な国民はきちんと摂るべきものを摂っているんですね。逆に、極端なダイエットに走りがちな若い世代の栄養不足が心配です。
1日1回は肉か魚を摂りましょう!本来、タンパク質は1日に、
体重(㎏)の数字を1.0-1.2倍した量(g)
が必要とされています。体重60㎏の人なら、60x1.0~1.2 ⇒ たんぱく質は60~72g必要です。筋肉を増やしたい運動選手などは、体重の数字の1.5倍から2倍近くのたんぱく質を摂ります。
注意すべきは、例えば赤身のお肉なら、100gあたりに含まれるたんぱく質の量はせいぜい20g程度だということ。体重60㎏の人は、ステーキにして1日300g-350g程度、火の通し方によってタンパク質は壊れていくので、場合によってはそれ以上摂らなければならない計算です。ちなみにタンパク質60g取るための目安は以下の通り。
タンパク質60g摂るための1日のメニューの例を、表2に挙げてみました。参考にしてください。
お肉と同じ分量の野菜を摂るよう心がけましょう。野菜のもつ抗酸化作用が、動脈硬化の進展を抑えるといわれています。肉料理の付け合わせに野菜が載っているのはその意味もあります。また、最初の一口で野菜を食べることにより、血糖値の急激な上昇を抑えることが知られています。もちろん、ビタミンやミネラルの供給源としても重要です。
何かと悪者にされがちな脂質ですが、本来は細胞膜や多くのホルモンの分子など、からだのあらゆる部分の重要な構成要素のひとつです。皮下脂肪や内臓脂肪は、本来は臓器や組織の“クッション”、もしくは食事がとれないときのエネルギー不足に備えての“兵糧”としての役割があります。
大切なのは、「体脂肪を燃やすにも、燃料としてのアブラが必要」ということ。最近よく話題になる“オメガ3脂肪酸”は、不飽和多価脂肪酸の一種で、体内に溜まらず、体脂肪の燃焼を助けるとされています。ただし、体内では産生できず、食事から摂らなければならなりません。えごま油、しそ油、アマニ油などはスーパーマーケットなどで購入できるオメガ3脂肪酸です。熱に弱いので、生でいただくこと。魚油も、からだに良いアブラの一種です。
なお、からだにつきにくいアブラ(不飽和多価脂肪酸)はたいてい常温で液体、体につきやすいアブラは常温で固体(肉についている脂身など、飽和脂肪酸)、と覚えておくとわかりやすいです。
“美味しいものは、脂肪と糖でできている”という、CMのフレーズのとおり、現代人は糖質過多に陥っている人が多いのは確かです。とはいえ、極端な炭水化物のカットは危険です。炭水化物の中の糖質は、脂質と違い、即効でエネルギーに変換されるため、緊急事態にはとても重要です。病気やけがをした時などには、糖質が足りないと回復が遅れることがあります。また、脳が栄養として使えるのは糖質とケトン体だけです。元気な60代は必要な炭水化物を摂っています。
サバの味噌煮定食や生姜焼き定食など、和定食は必要な栄養素がまんべんなくとれるメリットがあります。また、独り暮らしでコンビニにお世話になっているという方も増えていますが、最近のコンビニ食の中には、栄養価やバランスがよく考慮されているものもあります。上手に利用し、ストレスなく栄養を整えていけるといいですね。