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ナースBLOG Vol.3

ナースメンのお仕事

2021年09月20日
胸を開かない手術方法があるのは、知らなかった。

心臓の手術と言われると胸の骨を開いて手術をするイメージがあると思います。通常の心臓手術の場合、胸の中央にある“胸骨”を切り手術をします。しかし、近年では右の乳頭の外側辺りを3-5㎝程だけ切開して心臓の手術をする「低侵襲心臓手術」が多くなってきています。この手術の場合、胸骨を切らない為、退院が早く、社会復帰も早期に可能になります。また切開が3~5㎝である為、傷が目立ちにくく、特に女性には重要な要素になるのではないかと思います。手術というとその人の人生における大きなイベントであり、生活にも影響を及ばします。加えて、心臓の手術となればとても大きなイベントになることが想像できます。少しでも生活における負担が軽くなるよう、低侵襲の手術があるのです。ここで低侵襲心臓手術をした一例を紹介させていただきます。

社会復帰を控える患者様

M様 50歳代 会社員(事務系) 男性 妻子あり
病気:僧帽弁閉鎖不全症

M様は手術の前日に入院。外来では従来の胸骨を切る心臓手術の手術説明がされていました。M様は早期職場復帰の希望がありました。多職種での手術検討会にて身体的状態や年齢など総合的に判断し、低侵襲心臓手術での治療方針となりました。入院日に主治医より低侵襲心臓手術の説明を聞き、低侵襲の手術を希望されました。同日の夕方に術前訪問すると、「さっき胸を開かない手術方法の説明を受けて、その方法を希望したよ。そんな方法があるのは知らなかった。」と私に話されました。私は低侵襲心臓手術のことや手術後の経過など、先の医師の説明に付け加えながら説明し、少しでも理解を深め、緊張や不安が和らぐように看護師として支援しました。

手術当日 ~低侵襲僧帽弁形成術~

手術当日、M様を迎えるとキリッとした表情、しっかりとした足取りで手術室に入りました。手術室に向かう廊下で私は「緊張しますか?」と質問するとM様は「大丈夫。緊張してないよ。」と答えられました。手術はスムーズで大きなトラブルもなく無事に終わりました。手術の前後では患者様の精神面でのケアが大切です。ですが手術が始まってしまえば、医師や多職種と共に患者様の病気を治し、命を守るのが手術室看護師の役割です。そして、それが手術室看護師のやりがいの一つだと思います。私は手術の直接介助者として医師をサポートすることでM様の手術に携わり、より安全に短時間で手術が終わるよう全力で支援しました。

手術後翌日

M様は集中治療室で療養中です。術後訪問の為に昼頃に訪室すると、ベッドの上で座っていました。その日はリハビリテーションの開始、食事の開始、更にはトイレまでの歩行が許可されました。体調について質問すると、「喉が痛いけど、傷はそんなに痛くないかな。想像していたより辛い感じはしない。」と話されました。しかし、話し方や表情などから疲労感が感じ取れました。手術翌日ですから無理もありません。その日はM様自身の休息を優先しました。手術翌日にも関わらず、リハビリテーションや食事が進んでいたことが順調な回復を示している証拠だと嬉しく思いました。手術で自身が関わった患者様が手術を終えて、順調に回復していく経過を辿れるのも手術室看護師の魅力の一つだと思います。

手術後4日目〜退院
朝、主治医に確認すると明日、退院になるとのことでした。術後訪問するとM様が笑顔で迎えてくれました。「こんなに早く退院になると思ってなかったよ。」「傷も全然、痛くないし、これなら気にせずに仕事が出来そうだよ。」「きっと(胸骨を切って胸を開けていれば)今、こんな(元気な)状態でいられなかったと思うね。」と言われました。M様は退院後、5日程自宅療養をして仕事に復帰するとのこと。低侵襲心臓手術をしたことで早期退院が出来ることを喜んでいました。患者様が元気に退院できること、また喜ぶ姿というのは私たち看護師にとって最高の瞬間です。退室の際に「いろいろありがとうね。」と最高のプレゼントを頂きました。

M様は手術後5日目に元気に退院していきました。入院期間は6日間。一時的な術後合併症はありましたが順調な経過で退院されました。患者様にはそれぞれに仕事や家族などの背景があり、背負っているものがあります。“QOL”(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質・人生の質)を考えた治療・援助をすることの重要性をこのM様との関わりを通じて改めて感じました。

医師とともに治療現場に立つ手術室看護師のやりがい

手術室看護師は病棟看護師に比べて患者様と関わる時間は少ないです。その中で患者様の言葉を聞き、表情を捉え、想いを汲み取ることで医師とは違った視点から患者様をサポートすることが手術室看護師の仕事だと思っています。また“手術”という人生の大きなイベントに携わり、患者様の病気の治療現場に立ち会い、命を支える手術室看護師の役割にプレッシャーはありますが、その分、やりがいがあると思っています。患者様に寄り添い、看護師として出来ることを精一杯していきたいと思います。まだまだ未熟な私ですが日々精進します。