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VOL.36

Vol.36:ナメてませんか「睡眠負債」
国民の2割 30-40代の3人に1人は睡眠負債をためている

睡眠負債、という言葉を聞いたことがありますか?睡眠負債とは、「意識しない程度に毎日わずかずつ積み重なる睡眠不足」のこと。まさに、“睡眠の借金”です。睡眠負債については1年半前のこのコラムで取り上げていますが、今回はその影響についてさらに深く考えてみましょう。

4時間睡眠1週間つづくと、徹夜明け直後ほどにパフォーマンスが低下

まずは、睡眠負債をためているかどうかを確認してみましょう。「時間を気にせずに眠ってみて普段より余分に眠った時間」が、今たまっているアナタの“睡眠負債”です。睡眠負債は、「ためずに即返済(寝ること)」が基本。「休日にまとめて返済(寝だめ)」は、2-3時間が限度で、それ以上寝だめすると、生活リズムを壊し、かえって健康を損ねてしまいます。

図1を見てください。6時間睡眠が2週間続くと、1晩徹夜したあと同じレベルに脳のパフォーマンスが低下することを表しています。さらに、4時間睡眠が続くと、1週間後には何と、脳のパフォーマンスは2晩徹夜明けと同じくらい低下することが示されています*1

国民の2割、30-40代の3人に1人は睡眠負債をためている

70年代以降、日本人はどんどん短眠になっていきました。国民全体の1日の睡眠時間(平均時間)は,平日7時間15分(図2)、土曜7時間42分,日曜8時間3分で、特に平日の睡眠時間が減っています*2

怖いのは、「睡眠負債を抱えている」という自覚がしばしば欠けること。睡眠が足りていないにもかかわらず、それに気づいていない人が少なからずいるということが推測されます。本来成人には1日6時間半~7時間半の睡眠時間が必要です。しかし厚生労働省の調査によると、睡眠時間が6時間未満の人は約4割、40代については約半数にものぼります(図3)*3。自覚症状を感じにくい睡眠負債は、決して他人ごとではないといえるでしょう。

気づかないうちにカラダを蝕む、毎日1時間程度の“負債”

“睡眠不足”と“睡眠負債”の違いは何でしょうか?それは、睡眠不足が1日単位と短期的なのに対し、睡眠負債は持続的、慢性的な概念であること。 睡眠負債が長く続くと、体内ではいったいどんな影響が及ぶのでしょうか。時間を追ってみていきましょう。

  • 数週間続くと・・・自律神経の乱れ → 高血圧、不整脈
    まず、自律神経のバランスが崩れてきます。交感神経が優位となり、高血圧や不整脈が出現しやすくなります。
  • 数ヶ月続くと・・・ホルモンバランスの乱れ → 肥満、糖尿病、脂質異常
    眠っているときに多く分泌される成長ホルモンが減り、変わってストレスホルモンである副腎皮質ホルモンが多く分泌されるようになります。疲労回復が遅れ、免疫機能が低下しやすくなります。さらにインスリン抵抗性が上がり、また食欲を制御するレプチンの分泌が抑制されるため、肥満や代謝異常が進みます。
  • 数年続くと・・・精神神経系の異常 → 抑うつ
    セロトニンやカテコラミンなど、生命維持に必要な物質が枯渇するようになり、抑うつ状態を引き起こしやすくなります。
  • 15年ほど続くと・・・ アルツハイマー病など 脳内の老廃物といわれるアミロイドβなどの物質が除去されにくくなり沈着、アルツハイマー病など認知機能の低下を引き起こしやすくなると言われています。

睡眠負債を完済すれば、病気になりにくくなるだけでなく、動くのが楽になり、ストレスに強くなったり、集中力が高まったりと、心身のパフォーマンス向上が期待できます。

もっと知りたい方へ

もはや社会問題?!健康寿命を脅かす“睡眠負債”

睡眠負債は、睡眠の借金。ためると後になって大きなツケがまわってきます。心身を脅かすリスクについて考えてみましょう。

“過重労働×睡眠負債”が、脳心血管疾患の誘因に

図4をみると、睡眠時間が6時間未満の場合、6~7時間の場合に比べて心血管疾患のリスクは4-5倍になることがわかります*4)。

また、図5では、睡眠時間5時間以下でつき61時間以上の過重労働を続けると、心筋梗塞のリスクは約5倍に跳ね上がることがわかります*5

さらに、図6は「労働時間が長い(≧55時間)と心房細動のリスクが4割増す」ことを表しています。同じく週55時間以上の過重労働で高まるリスクとして、肥満(1.34倍)、不活動(1.18倍)、喫煙(1.15倍)、アルコール多飲(1.18倍)などが挙がっています*6

その他、睡眠の質の低下が免疫機能の低下やうつ病の発症にも関与することがわかっています。

睡眠負債は、認知機能低下にもつながる

多くの生物は、遺伝子によって形成される約24時間の生体リズム(サーカディアンリズム)を持っています。朝日などの光を感知してスイッチが入り、同時に体温を上げて活動モードに入ります。ところが現代は、人工的な光によってサーカディアンリズムが崩され、慢性的な心身のストレスにつながるリスク少なくありません。

アルツハイマー型認知の原因となるアミロイドβという物質は、熟睡している間に除去されるといわれています。睡眠の質の低下が続けば、除去されるべき物質が沈着し、早期に認知機能低下が進行する恐れもあります。

このような事態をできるだけ避けるには、起床や就寝の時刻をできるだけ一定にすること。休日前だからと言って夜更かししたり朝寝坊したりすることは、自らサーカディアンリズムを崩しリスクを増大させることとなります。寝る直前にテレビやスマホを見ることも、できるだけ避けましょう。

働き方改革を上手に利用し、睡眠負債の返済を

「日本は何らかの睡眠障害によって、毎年15兆円、GDPの3%を損失している」というデータがあるそうです。睡眠負債は、国全体のパフォーマンスを低下させ、健康長寿を阻害し、医療費を増大させる原因といえるかもしれません。

図7に1日の時間の使い方を示しました。睡眠を7時間確保すると、残りは2-3時間しかなく、2時間残業すれば、あとは睡眠時間を削るしかありません。毎日2時間は概ね月45時間程度に相当し、これが、現在の超過勤務の上限規定の根拠となっています。

とはいえ、24時間稼働する医療機関、工場、店舗などでは交代勤務を完全になくすことは簡単ではありません。働き方改革で最も熱い議論が交わされている領域の1つです。国民として、議論の行方をしっかりと見守りたいものです。

  • *1

    Van Dongen HP et al. Sleep. 2003;26(2):117-126.

  • *2

    国民生活時間調査2015 - NHK 放送文化研究所

  • *3

    厚生労働省 平成29年「国民健康・栄養調査」

  • *4

    Hamazaki, et al. Scand J Work Environ Health. 2011;37(5):411-7.

  • *5

    Y Liu, The Fukuoka Heart Study Group, Occup Environ Med. 2002;59:447–451

  • *6

    Eur Heart J. 2017;38(34):2621-2628