
心臓外科医でスーパーバイザーの米田先生とおしゃべりします。(4)
「心不全」
―― おしゃべりハート。今日は、心臓外科医でスーパーバイザーの米田先生とおしゃべりします。よろしくお願いいたします。
米田 お願いします。
―― ニュースで「心不全で亡くなりました」とよく聞くんですけれども、心不全というのはどういう病気なんですか。
米田 心不全というのは、結局、心臓が十分に動けない、十分に血液を全身に送れない状態で、いろいろな心臓の病気が最後は同じように心不全になるんですね。例えばもとが弁膜症であっても、もとが心筋症であっても、もとが心筋梗塞であっても最後は心不全で、特に重症の患者さんがお亡くなりになる場合は、結局心不全なんです。
―― 心不全というのは、じゃ、心臓が機能しなくなりましたよと。
米田 そういうことですね。
―― その原因というか、病名はいろいろ。
米田 もとがいろいろあるわけですね。
―― そういうことがあって心不全になって亡くなる方がいらっしゃると。報道では「心不全で亡くなりました」という表現になるわけなんですね。じゃ、心不全の治療という話は難しいですね。いろいろな病気の治療の話になってしまうわけですね。
米田 原因が治療できる場合は比較的明快です。それぞれの原因、例えば弁膜症なら弁を治す、心筋梗塞であれば心筋梗塞の原因になる血管をカテーテルとかバイパス手術とかで治す。そうやってそれぞれの原因を治せば心不全もかなり治ります。原因が単純明快でない場合に工夫が必要となります。
―― 心臓が機能しないわけですからね。
米田 はい。原因がはっきりしない心筋症などでは、心臓の筋肉の力そのものをもう一度回復させるような治療をあわせて行うことでやや複雑となりますが、以前と比べるとかなり治療ができるようになってきています。
―― 防ぐことができる。
米田 予防が一番いいわけですけれども、心不全になってからでも、できるだけ心臓の負担をとるというようなお薬が今何種類かあります。
―― 心不全になってからでも手の施しようがあるわけですか。
米田 もちろん、あまり重症になると、心臓の移植などを考える必要が出てくるわけですけれども、例えばちょっと歩くと息切れがして苦しいとか、そのぐらいであれば薬でかなりよくすることはできます。
―― 息苦しいというような段階でも、もう心不全ということになっているわけですか。
米田 そうです。だれでもできる程度の軽い運動、5分、10分歩くだけでも、あるいは2階へ上るだけでも息切れがして苦しいとなってくれば、これはもう心不全の症状としてははっきりしたものになります。
―― じゃ、健康な状態の心臓があって、それよりちょっと機能が悪くなればもう不全。
米田 軽い心不全ですね。
―― 軽い心不全ぐらいだと薬で治せるということなんですね。
米田 そうです。それがもう少し重くなって、例えば心臓がひどく大きくなってきたりすると、手術でその大きくなったもの、特に悪い場所をきれいにまとめて、それでかなり良くするというようなこともできます。
―― 心臓は、弱くなってくると大きくなる。
米田 そうです。大きくなります。心臓の壁が薄く大きくなるという形で。
―― 膨らむわけですか。
米田 膨らみますね。
―― そのかわり壁が薄くなる。
米田 そうです。薄くなるとよけい力が出なくなって、よけい大きくなるというふうに悪循環になってしまうんですね。その悪循環を切るために、手術で心臓の形、大きさをきれいに整える。そうやって元気になる人もかなりあります。
―― じゃ、弱くなることを補おうとして心臓は自分で大きくなる。大きくなることによってまた弱くなるから、また大きくなると。
米田 そうです。そうなると、もともとは大きくなることで弱くなった分、力の落ちた分を何とかして補おうとしていたわけですけれども、そういう悪循環に陥ってしまうと、もう自分の力ではなかなか回復できなくなるんですね。そうなると、手術で回復する力をもっと応援するわけです。
―― 手術というのは、悪いところを除去する。
米田 そうです。悪いところを除去する、これが一番よく効くわけですけれども、あるいは大きくなり過ぎて、もう全然もとへ戻れないという時、形を整えながら小さくする。最近、テレビなどでも時々話題になるバチスタ手術とか、セーブ手術とか、そういう形の手術で、心臓がみずから全然戻れないのを手術によってもう一回戻してあげるというようなことですね。心臓の状態によってはそういうのが効くケースがあります。手術の良い点は移植や人工心臓が使えない方でも使えることです。あと両室ペーシングという特別なペースメーカーが役立つことがあります。
―― 先生は外科医ですから、そちらの手術の方はもう専門分野でいらっしゃるんですよね。もっと悪くなった場合というのはどうするんですか。
米田 そういう薬や手術でも対処できない、もうほとんど動いていない心臓になってくると、これは人工心臓を使って機械の力で補助をする。それで回復すればまだいいんですけれども、やはり現在の医学では回復する率がそう高くないんですね。その場合は心臓の移植へ進める必要があります。
―― なるほど。よく海外に行って心臓移植を待つなんていうニュースも聞きますけれども。
米田 そうですね。
―― 人工心臓というのは、人工心肺とは違うわけですよね。
米田 人工心肺の場合は、肺もあわせて肩代わりするんですね。人工心肺になると、例えば3日間ぐらいであればいろいろできるんですけれども、何年もやるというのは極めて難しいですね。
―― 手術をする時に、手術するために心臓をとめておいて体の循環は人工心肺に切りかえてというのはよく聞きますけれども、せいぜいその程度。
米田 これは、2時間とか3時間とか比較的限定した時間であればかなり安全にできるんですけれども、同じタイプの器械を3日ぐらい使うと、いろいろな障害が出てきますね。それから人工肺の方を交換する必要がある。時間とともにやはり無理がはっきりと出てきますね。
―― じゃ、3日が限界という感じなんですね。
米田 機械をかえて、それを繋ぎ繋ぎでやむを得ずそれで頑張る時はあるわけですけれども、まだ長期間は難しいですね。
―― 人工心臓ならそこから解き放されて、ずっと使えるよと。
米田 もう少しいいですね。半年ぐらいまではいいんですけれども、それを超えると、やはりいろいろな問題が出てきて、脳梗塞を起こしたり、出血したり、ばい菌に負けたり、いろいろ問題があって患者さんがだんだんとお亡くなりになっていくんですね。
―― 人工心肺はでかい機械ですけれども、人工心臓というとちっちゃいんですか。
米田 まだ比較的大きなものですけれども、新しいタイプがどんどん出てきて、大分小さくなってきています。
―― でも、体の外に出ているものですか。
米田 出ていますけれども、最近は体の中に埋め込めるというのが何種類も出てきて、それが今後、期待できる。
―― じゃ、状況がよければ出歩くこともできるようになる。
米田 できますけれども、これまでは大きいものでしたので、例えばアメリカ人の体格の大きな患者さんであれば何とか入っても、日本人ではちょっと大き過ぎる。それで体の外に置くタイプのものを使うというのが多かった。最近は小さいのが出つつありますので、これで比較的体格の小さい方でも長期間いける可能性は出てきています。
―― じゃ、これからという分野なんですね。
米田 ええ。今から3年、5年ぐらいの間に相当進歩するんじゃないかと思っています。ただご高齢の方には心移植はできませんし人工心臓はまだ限界があります。そこでお薬や手術などの治療をさらに進歩させる必要があります。さらに近い将来、再生医療がそれに加わるでしょう。すでに動物実験ではそれなりの進展がみられています。
―― 今日、お薬で治る段階から手術で治る段階、そして、心臓移植ないしは人工心臓という段階というお話。
米田 できれば原因の段階で予防して、あるいは早い時期に治療して、あまり悪くならないところでとめる、これが一番いいと思います。
―― 心不全のお話から人工心臓のお話まで、広い範囲でお話を伺いました。米田先生、どうもありがとうございました。