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VOL.25

Vol.25:老化だから仕方ない?と放ってはおけません…
筋肉が減る(サルコペニア)と心臓に負担がかかる

“サルコペニア”って、聞いたことがありますか?骨格筋(=sarco、サルコ)の量・筋力が減少(=penia、ペニア)する病態を指しています。通常でも、筋肉は30歳代頃から年に1%ずつ減っていくと言われています。70歳になると若い頃の5-6割くらいになってしまう計算です。生理的レベルを超えて筋肉が衰えるのが、サルコペニア。運動機能だけでなく、内臓の機能、特に心臓に負担がかかることが知られています。

サルコペニアとは?

サルコペニアの基準はいくつかありますが、図1は、日本人に合ったサルコペニアの簡易基準を示したものです。「65歳以上で、歩く速さが1秒間に1m以下もしくは握力が男性25kg以下、女性なら20kg以下、さらにBMI(体重÷(身長x身長(m))が18.5以下の瘦せ体型か、もしくはふくらはぎが極端に細い(周囲径<30cm)」であれば、サルコペニアということになります*1。歩行速度の1m/秒といえば、横断歩道を青信号のうちに渡り切ることのできる速さです。

図2は、名古屋ハートセンターである1ヶ月間に外来心臓リハビリテーションに通っていた患者さんの体格の分布を表しています。BMIというのは、体重(kg)を身長の2乗(m)で割って求める、体格を表す指標で、日本人の標準は22です。全体の約3分の1の患者さんはどちらかというと瘦せ傾向、そして、サルコペニアの定義にある「BMI18.5以下」の人がほぼ1割程度います。

腰痛や膝痛で整形外科を訪れる患者の多くも、実はサルコペニアではないかという医師もいます。骨や関節に問題なければ、筋肉の衰えが原因ですので、筋肉をつけるしかありません。

サルコペニアを予防するためには

何といっても、基本は適度な“栄養”“運動”、そして“休養”です*2

栄養

“先立つもの”がなければ、筋肉は維持できません。動物性たんぱく質をしっかりと摂ること。空腹時の運動は筋肉のたんぱく質合成を促すことができないため、必ず食事後に行いましょう。運動後一時間以内に良質のアミノ酸を摂取することで筋肉でのタンパク質合成が促されます。筋肉を蓄える作用のある必須アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)を補充することが有効と言われています。間違っても、お菓子を食事がわりにしないように!

運動

筋肉は、鍛えることで何歳になってからでも強く大きく発達させることができます。筋肉に負荷をかけて標的の筋肉を直接鍛えるレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)やストレッチが有効と言われています。大げさな運動は不要、筋肉量の多い下半身を中心に行います。自宅でもできる、スクワット・もも上げ・つま先立ちなどを、15回を2-3セット行いましょう。筋トレは、自身の最大負荷の4割くらいの重さがちょうどよいとされています。また、有酸素運動として1日30分程度のウォーキングも週3-4回は行いましょう。注意すべきは、「やり過ぎないこと」。体力レベルを超える運動はかえって筋肉を消耗させ(異化作用亢進)、減らしてしまいます。

休養

筋肉は、実は休んでいる時に育ちます(超回復と呼んでいます)。適度に運動した後に十分な休養を取ることにより、代謝や自律神経作用を改善し、筋肉同化作用を促進します。普段頑張り過ぎる人ほど、ぜひ休養を意識するようにしましょう。

生活習慣全般を整える

睡眠不足、運動不足、不規則な食生活、強いストレス、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣は、身体活動性の低下や低栄養、代謝異常、免疫低下などを引き起こし、サルコペニアに繋がる要因をとなります。日々の生活習慣こそが、サルコペニアを予防し、健康長寿を作り出すことを忘れないようにしましょう。

もっと知りたい方へ

見て見ぬ振りできない
高齢化社会の新たな課題“サルコペニア(筋肉減少)”

高齢の心不全患者さんにとって、サルコペニアは予後を左右する重要な病態のひとつです。サルコペニアは、加齢が原因で起こる「一次性サルコペニア」と加齢以外にも原因がある「二次性サルコペニア」とに分類されます。若年者の場合は、怪我や病気、手術などで一時的に食事の量が減り活動性が低下しても、筋力の低下は限定的です。ところが、高齢者の場合は様々な病態が複雑に絡み合い、ひとたびサルコペニアに陥ると、回復には時間がかかるといわれています。

サルコペニアのメカニズム

筋肉が異常に衰えるメカニズムは、主に以下のようなことです。
特に高齢者の場合、加齢や元々の体質、生活環境、生活習慣、慢性疾患など複数の要因が絡み合ってサルコペニアに陥ることが多いのが特徴です。

1.栄養不足

筋肉の材料であるタンパク質や、タンパク質を合成するために必要なビタミンやミネラルなどが不足すると、健全な筋肉が形成されなくなります。栄養不足は代謝、免疫力や自律神経のはたらきを弱め、さらに体力を低下させます。

2. 筋肉の消費(タンパク異化作用)が合成(タンパク同化作用)に追いつかない

体力がない人、心臓病などの慢性疾患を持つ人は、体力以上に筋肉を使ってしまうと、筋肉合成(“同化作用”)が筋肉の消費(“異化作用”)に追いつかず、どんどん減ってしまいます。

3. 低活動・不活動

人間のからだは、使っていない部分は“不要なもの”と判断し、エネルギーや栄養の配分を他に振り分けるようになります。殆ど動かずに生活していると、筋肉は“退縮”し、サルコペニアが進行します。

4. 口腔機能の低下

忘れてはならないのが、口腔機能の低下によるサルコペニアの助長です。口腔機能には「かみ砕く(咀嚼)・飲み込む(嚥下)」「唾液を分泌する」「言葉を発する(発音)」「表情をあらわす」など様々な役割があります。栄養状態や免疫力を保つだけでなく、人としての高次機能を維持するためにも、口腔機能は大切な要素なのです*2

5. 不安、抑うつ

ストレスや不安、抑うつ状態は、食欲や活動性を低下させ、結果的に筋肉の成長を妨げてしまいます。また自律神経のはたらきを乱し、代謝や内分泌機能、免疫機能を低下させます。

サルコペニアは心疾患患者の死亡率の増加に繋がる

心疾患患者さんにおいては、病気の進行とともに食欲低下や栄養の不足が起こりやすくなります。また、筋肉のたんぱく質合成や分解に関わるステロイドホルモンや成長ホルモンなどのホルモン調節、自律神経機能の乱れなど、さまざまな病態が起こります。その結果、筋肉のたんぱく質合成(同化作用)が行われにくくなり、反対に筋肉の分解作用(異化作用)が亢進しやすくなります。さらに運動の機会が減り、活動性が低下して悪循環に陥ります。筋肉量の減少とともに代謝が落ちて体脂肪が増え、インスリン抵抗性の増大から糖尿病や脂質異常を来しやすくなることも知られています(図3)。

図4は、心疾患患者さんの体重の1年間の変化率と死亡率の関係を調べたものです*3。体重変化が殆どなかった人と比べ、体重が減った人、そして過度に体重が増加(+7%)した人は有意に死亡率が高かったことを示しています。この場合体重が減った人というのは、主に筋肉量が減ったと考えられます。心疾患患者さんにとっては、「筋肉が減ること」は命に関わる事態とも言えます。

サルコペニアになる要因をひとつでも減らし、サルコペニアに陥らないように、日々の習慣を見直してみることが大切です。

  • *1

    第53回日本老年医学会学術集会記録(若手企画シンポジウム2:サルコペニア―研究の現状と未来への展望―)日常生活機能と骨格筋量,筋力との関連下方浩史 安藤富士子 日本老年医学会雑誌2012;49:195-198

  • *2

    厚生労働省.e-ヘルスネット

  • *3

    Eur Heart J 2008; 29: 2641-2650