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VOL.10

Vol.10:「痩せられないワケ」Part III

食事を控えても、運動しても痩せない人へ・・・適正な休養、取れてますか

Part I は現代人に増えつつある“栄養障害”について、Part II は適度な運動習慣の重要性について、お話をしました。 でも、バランスよく栄養を摂って、適度に運動していても、痩せないという人は少なくありません。

  1. 1

    正しい栄養

  2. 2

    適度な運動

  3. 3

    適正な休養

今回は、3. “適正な休養”についてのお話です。またまた、Aさんにご登場願いまししょう。

Aさんは2児の母で、営業マンの夫と4人暮らしです。平日の朝は5時半起床で子供たちのお弁当作り、日中はパートや実家の母の手伝いをこなし、夜は10時ごろ帰宅する夫の食事の支度と片付けと、朝から晩まで大忙し。寝るのは夜中の1時ごろになってしまいます。週末も子供の行事などがあり、日々休む暇なく動き回っています。Aさんの悩みは、身長158㎝、体重60㎏。ここ2-3年で体重が7㎏増えたまま戻らないこと・・・。

痩せられないワケ その3 休養編

食事調査から、Aさんの食事はタンパク質が少なく糖質が多く、実際には必要な栄養が足りていないことがわかりました。また、移動はほとんど車、仕事はデスクワーク中心、運動不足でした。
さらにAさんの日々の睡眠時間は平均4-5時間。週末も様々な用事があり、本当に休んでいるのは月に1回か2回です。実は、このように睡眠時間が短い人ほど痩せにくいことがわかっています。その最も大きな理由の一つは、食欲を司るホルモンの乱れです。

睡眠時間が短いと、食欲抑制ホルモンが低下し、食欲増進ホルモンが増加する

私たちの食欲には、体内で分泌される2種類のホルモンが大きく関与しています。それは、「レプチン」と「グレリン」です。

レプチン

食欲を抑制するホルモンです。脂肪細胞から分泌されるホルモンで、基本的に食事をしたあと分泌されます。脳の視床下部にある満腹中枢が刺激され、満腹感を感じるようになります。脂肪細胞が多い人、つまり体脂肪が多い人ほど、多く分泌されます。

グレリン

食欲を増進するホルモンです。胃から分泌されるホルモンで、本来は空腹で体内のエネルギーが不足しがちなときに分泌されます。脳の視床下部にある食欲中枢が刺激されて、食欲が増します。病気や大きな手術の直後には、グレリンの分泌が低下するため、一時的に食欲が低下することがよくあります。

必要なタイミングでグレリンの分泌が増し、ある程度栄養を摂取したらレプチンの分泌が増す、このバランスが保たれていることが大切です。ところが、睡眠不足の人はこれが逆になっています。図1を見てください。睡眠時間が短くなると、レプチン(食欲抑制ホルモン)が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)が増加します*1

睡眠不足でグレリンが分泌されると、高脂肪・高カロリーな食べ物を求めやすい傾向にあるとも言われています。夜遅くの飲み会などで、“〆のラーメン”が食べたくなるのも、こうしたメカニズムによるものです。夜遅い食事は代謝が落ちるため、肥満に繋がります。

体脂肪が多いと満腹中枢の制御が効かなくなる
食欲抑制ホルモンのレプチンは、脂肪細胞から分泌されて脳の視床下部に“満腹だからもう食べないで”という指令を送ります。しかし体脂肪が多い状態が続くと、レプチンの受容体感受性が低下し、指令に反応しにくくなると言われています。かくして、満腹中枢はいつまでも満足せず、食べ続けてさらに体脂肪が増えるという悪循環に陥ってしまいます。
ストレスや睡眠不足が慢性の肥満に

ストレスが多い人、睡眠が十分に取れていない人は、自律神経のバランスが乱れやすく、レプチンとグレリンだけではなく、食欲抑制や脂肪の代謝に関わるさまざまなホルモンのはたらきを滞らせることが分かっています。適切な栄養や運動とともに、“休養”の大切さを改めて見直してみませんか。

もっと知りたい方へ

積極的に“回復モード”を取り入れましょう

レプチンとグレリンという食欲制御ホルモンの他にも、肥満に関係の深いホルモンがいくつかあります。そのうちの2つ、“成長ホルモン”と“コルチゾール”をご紹介しましょう。

「寝る子は育つ」は子供だけにあらず・・・健康をはぐくむために必要な成長ホルモン

成長ホルモンには、成長期の子どもの身長を伸ばし、成熟したからだをつくるはたらきがありますが、大人にとっても、全ての器官や組織の発達・維持に重要です。骨格や筋肉を発達させたり、脂肪を分解したり、体内のナトリウムバランスを維持するなど、健全な新陳代謝を促し、全身の細胞修復に関わります。お肌のアンチエイジングにも効果的と言われています。

成長ホルモンが減ると、代謝が低下して脂質異常や糖尿病になりやすくなったり、骨や筋肉が減ったり、皮膚が弱くなったりします。長引けば、動脈硬化の進行や心機能の低下など、心臓血管系の異常にも繋がり得ます。また、集中力や気力が低下したり、イライラしたり落ち込んだり、精神面でもさまざまな影響があらわれます。心身のメンテナンスには欠かせないホルモンなのです。

休養不足で増えるストレスホルモンの一種、コルチゾール

コルチゾールは生命維持のために欠かせないホルモンのひとつです。もともとは生物が外敵や飢餓など生命の危機に直面した際に分泌され、血圧や脈拍を上昇させて“非常事態”から脱出するためにはたらきます。正常に分泌されていれば睡眠中に脂肪や糖の代謝を行うため、ダイエットに効果的。しかし、四六時中ストレスにさらされ、コルチゾールが増えすぎると、成長ホルモンの働きを阻害し、基礎代謝を低下させ、エネルギー効率が悪く脂肪が燃えにくい体質になります。いわゆる“ストレス太り”です。またコルチゾールが過剰になると、通常よりも大量のインスリンが分泌されます。インスリンは余ったエネルギーを脂肪として溜め込む働きがあるため、食事で摂取したエネルギーが脂肪になりやすくなります。

十分な“回復モード”を確保することで、健康なからだを育む

図2*2を見てください。成長ホルモンの分泌と睡眠には深い関係があり、“就寝後3時間”に最も分泌が増えると言われています。寝ている間の脳や臓器の活動を維持するためのエネルギーは、体脂肪の燃焼によってまかないます。成長ホルモンの分泌量を高めると、代謝が良くなり脂肪を燃焼させるため、痩せやすい体質に変えることができます。また、コルチゾールはその日の活動に備えて、起床時に分泌が増えます。良質な睡眠でからだが回復したあとにコルチゾールの分泌が増えることにより、すっきりと活動性や代謝を上げることができます。

良質かつ十分な睡眠が取れないと、成長ホルモンの分泌が抑えられ、コルチゾールが夜中に過剰になるために、代謝がうまくいかず痩せにくくなります。寝不足によるストレス過剰もコルチゾール増加の原因となりえます。以下に4種類のホルモンについてまとめてみました。食欲や肥満に関係するホルモンはまだまだあります。これらを上手にコントロールするためには、適切な休養を確保することが大切です。“回復モード”をぜひ意識して、積極的に活用してください。
ホルモンたちを上手に駆使して、痩せやすいカラダに
レプチン

食欲を抑えるホルモン。睡眠時間が少ないと分泌が減ってしまう

グレリン

食欲を増すホルモン。睡眠時間が少ないと増加し、高カロリーの食事を撮りたくなる

成長ホルモン

全ての器官や組織の発達や修復、維持に関与し、健全な新陳代謝を促進する。睡眠が少ないと分泌が減ってしまい、心身の維持が困難になる

コルチゾール

心身のストレスからカラダを維持、防御するために分泌される。ストレス過多になると、成長ホルモンの分泌を妨げ、過剰なインスリン分泌を招き、脂肪を溜め込みやすくなる

  • *1

    Taheri S, et al. Short Sleep Duration Is Associated with Reduced Leptin, Elevated Ghrelin, and Increased Body Mass Index. Plos Med, 1(3), 2004

  • *2

    Copinschi, Challet, Endocrine Rhythms, the Sleep-Wake Cycle, and Biological Clocks. Endocrinology: Adult and Pediatric, Chapter 9, 147-173.